口腔状態悪化で認知機能低下の可能性
東北大学は令和3年4月16日、嚥下機能低下や歯の喪失など口腔状態の悪化がみられた人は、主観的な認知機能低下が発生する確率が高いことを明らかにしました。
この研究の結果により、口腔状態を健康に維持することは、主観的な認知機能低下を防ぎ、将来における認知症発症のリスクを減らしうる可能性が示唆されました。
研究の背景
認知症を発症している人は全世界で約5000万人いるとされ、その数は2050年までには1億5200万人まで増えると考えられています。認知症の前段階は、軽度認知障害(MCI)であり、老化と認知症やアルツハイマー病の間の状態とみなされます。そして、MCIの発症を防ぐことは、将来の認知症発症を防ぐ可能性があると考えられ、重要視されています。
近年、口腔状態の悪化が認知機能低下や認知症発症と関連することが多数の研究から明らかになっています。しかし、口腔状態の悪化や認知機能低下は長期的な経過をたどるため、ランダム化比較試験を行うことは困難でありました。そこで、この研究では、様々なバイアス(偏り)を除外する固定効果分析を用いて、口腔状態の悪化が主観的な認知機能低下の発症リスクを高めるのかについて調べました。
1万人超の高齢者を6年間追跡調査
研究は、2010年において主観的な認知機能低下がないと答えた、65歳以上の地域在住高齢者13594名を対象に行われました。「周りの人から物忘れがあると言われるか?」などといった問いに対して、認知機能の低下を示す回答をした高齢者を主観的な認知機能低下有りとみなしました。
それに加えて、「お茶や汁物でむせるか?」「硬いものが食べにくくなったか?」「口の渇きが気になるか?」などの質問を行い、嚥下機能や咀嚼機能の低下、口腔乾燥感の有無や歯の本数が、主観的な認知機能の低下と関連するかを検討しました。 調査では、年齢、持病の有無、飲酒、喫煙歴などの影響を除外しました。
認知機能低下のリスクが約3%~9%増加
質問紙調査による6年間の追跡調査の結果、参加した男性の26.6%、女性の24.9%において、主観的な認知機能の低下が認められました。
また嚥下機能、咀嚼機能、口腔乾燥、歯の喪失があった人のうち30%前後の男女において、主観的な認知機能の低下がみられました。
さらに、口腔状態の低下がある人は、そうでない人に比べておよそ10%多く認知機能低下がみられました。ただしこの値は年齢や既往歴などの影響を受けた可能性もあったため、関連する要因を考慮した解析を続けました。
その結果、嚥下機能が低下した人、咀嚼機能が低下した人、口腔乾燥感が現れた人、歯を失った人は、そうでない人に比べて認知機能低下の発生確率がおよそ3~9%高かったことが判明しました。
この研究により、将来の認知症発症リスクを高めうる、主観的な認知機能の低下は、口腔を健康に保つことで予防できる可能性が示唆されました。
出典
「口腔機能低下、歯の喪失がみられた高齢者で主観的認知機能低下のリスクが約3%~9%高い」―6年間の縦断調査よりー(東北大学プレリリース)